ばなな通信

小説家・青葉奈々のお仕事情報とのんべんだらりとした日々を掲載するブログです。
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# 気まぐれに……
以前、シナリオの学校に通っていたことがあったんですが、その時に書いたものをサルベージ。
テーマは「時代劇」で、ペラ20枚(400字詰めだと10枚)の短いシナリオです。
小説ではないし、今後もどこかに発表することはないだろうなあと思うけれど、ちょっと気に入っているので、せっかくだからブログで発表してみます。
なにぶん習作なのでちょいとつたないところはあるんですが、興味を持っていただけたら「続きをよむ」から……

「錦絵」


○松前家・謁見の間
   菊の助(24)、身体を低くし、松前忠邦(43)を見つめている。
菊の助「浮世絵でございますか、松前様の」
   松前、うなずき、扇子を開く。
松前「お主は腕のよい絵師だと聞く。私は浮世絵が好きでな。是非私を描いてほしい」
菊の助「は……」
   菊の助、深く頭を下げる。
菊の助「恐れ多きことではござりますが、お受けさせていただきます」
松前「うむ、楽しみにしておる」
   満足そうな松前。菊の助、更に頭を下げる。

○同・廊下
   廊下に出る菊の助、立ち止まり、庭を見る。庭にはお美代(21)がたたずみ、花
   を見ている。
   足を止める菊の助。お美代を見つめる。
   松前、背後から現れ、菊の助の視線の先を追う。
松前「ああ……あれは、私の妻だ」
   菊の助、お美代をじっと見つめている。
   お美代、菊の助に気づく。驚いた顔。
   お美代、ぎくしゃくと頭を下げる。
   菊の助、お美代を見つめ続ける。

○長屋・菊の助の部屋(夕)
   夕日が差し込む室内。菊の助、机に向かい、絵を描いている。筆を握り、真
   剣な表情。
   扉がノックされ、がらりと開き、松五郎(24)が入ってくる。
松五郎「おう、精が出るじゃねェか」
   松五郎、部屋の入り口に腰掛ける。
松五郎「今日じゃなかったか、ほら、松前のお殿様に呼ばれたっつーのは」
菊の助「ああ……錦絵を描いてくれと」
松五郎「へェ、そりゃ、松前様のか」
菊の助「ああ」
松五郎「そりゃえれェこと頼まれたもんだ」
   松五郎、えれェえれェと繰り返す。菊の助、筆を置き、振り返る。
菊の助「おい、お美代を覚えているか」
松五郎「おう、覚えてるぞ。えれェ別嬪だったからな。吉原に売られて行ったが、ど
 こかのお侍様に身請けされたと聞いたな」
菊の助「そうか……お美代に会った」
   松五郎、膝を叩き、喜ぶ。
松五郎「へェ、松前様のとこでか! そうか、松前様は立派な殿様だからなぁ。それによ、
 五年前にあの家の屋根直したの俺でよぅ」
   松五郎、うれしそうにうなずいている。
   菊の助、無表情のまま筆を手に取る。

○松前家・奥の間
   菊の助、松前の顔を見ながら筆を握り、絵を描いている。
   遠くから聞こえてくる足音、少しずつ近づく。がらりと扉が開き、お美代が
   膝をついている。
お美代「旦那様、川上様がお目にかかりたいとおいでになっておられますが」
松前「そうか。菊の助殿、すまぬがちと席をはずさせてもらう」
菊の助「へい」
   筆を置き、平伏する菊の助。松前、立ち上がり、部屋を出て行く。
   お美代、菊の助をじっと見る。菊の助、顔を上げ、お美代と目が合う。
菊の助「(しばし沈黙し)美しくなったな」
   お美代、かすかに微笑む。
菊の助「約束を違えて、悪かった。本当は、迎えに行きたかったのだが」
   お美代、ゆっくりと首を振る。
お美代「わたくしには、あなたのその言葉だけで十分にございます」
   優雅に頭を下げるお美代。頭を上げると、桜の着物が翻る。扉が閉まる。足
   音が遠ざかる。
   菊の助、顔を上げ、壁を見つめている。

○長屋・菊の助の部屋(夕)
   菊の助絵を描いている。扉が開き、松五郎が入ってくる。
松五郎「おうおう、今日も仕事か」
   松五郎、入り口に腰掛け、首から提げていた手ぬぐいで顔をぬぐう。
松五郎「今日は暑いなぁ。そう思うだろ」
菊の助「それはお前が走り回るからだろう」
松五郎「違ェねェ。それより菊の助よ、今日、俺もお美代を見たぞ」
   菊の助、手を止める。
松五郎「えれェ美しい着物を着てたな。桜の花の。お武家様に輿入れするとえれェ着物
 を身につけるもんだ」
   松五郎、上機嫌で話しながら靴を脱ぎ、どかどかと室内に入ってくる。
松五郎「ところでお前何を書いていてんだ」
   松五郎、後からのぞき込み、ニヤニヤする。
松五郎「ほう、春画か……ん?」
   松五郎、じっくりと絵をのぞき込む。
   菊の助、絵の中の女性の着物に着色している。お美代の着ていた着物と全く
   同じ模様と色。絡んでいる男性は菊の
   助本人。
松五郎「お前……何を描いてんだ! こんなもンを描いたと知れりゃァどうなるか」
菊の助「安心しろ、表には出さねェさ。だが、かなわぬ思いを絵にしたためるくらいは自
 由だろう」
松五郎「確かにお前はお美代といい仲だったが……」
   松五郎、慌てたような表情。
   菊の助、意に介さず絵を描き続ける。
松五郎「知らねェぞ、俺ァ!」
   松五郎、逃げるように去って行ってしまう。
   菊の助、表情ひとつ変えずに春画を描き続ける。

○同(夜)
   行灯の薄明かりが灯っている。菊の助、完成した絵を手に、ぼんやりしている。
菊の助「お美代……」
   行灯の明かりがゆらりと揺れる。

○松前家・玄関
   玄関先で菊の助に頭を下げる下男。
下男「へェ、旦那様は急にお城に呼ばれ、出てしまい、留守ですわ」
菊の助「そうか……それでは、仕方がない」
   菊の助、周囲を見る。庭の方にちらりとお美代の姿が見える。
   菊の助、下男の方に向き直り、
菊の助「では、背景に使う部屋を描かせてはもらえんだろうか」
下男「へェ、絵師様には失礼のないようにと旦那様より言われてますんで」
   下男、菊の助を案内し、歩き出す。

○同・廊下
   庭に面した廊下。下男と菊の助が歩く。
   庭にお美代がいる。お美代、顔を上げる。菊の助、お美代と目が合う。
   じっと見つめ合う二人。

○同・奥の間
   下男、菊の助を案内すると去って行く。
   菊の助、紙と筆を手にする。しばらく絵を描いている。
   扉が開き、お美代が入ってくる。お茶と茶菓子を持っている。
お美代「こちらを」
   菊の助、お美代をじっと見つめる。
菊の助「下女のようなことをするのだな」
お美代「大切なお客様でございますから」
   菊の助、無言でお美代を見つめる。
   お美代、目をそらし、頭を下げる。
お美代「失礼いたします」
菊の助「(遮るように)待ってくれ」
   お美代、頭を下げたまま止まる。
   菊の助、戸惑ったようにお美代を見つめ、迷ったように目をそらし、筆をそ
   っと置く。
菊の助「俺は、」
お美代「(遮って)おやめくださいまし」
菊の助「(無視して)俺は、お前をずっと、連れ戻したいと思っていた」
お美代「おやめください」
菊の助「だが、しがない町人に、吉原へ行く手立てはなかった」
お美代「おやめください!」
   お美代、耳をふさぎ、小さくなる。
   菊の助、愛おしそうにお美代を見る。
菊の助「約束を違えて、悪かった。だが、俺の心は今も、変わらん」
   お美代、平伏し、立ち上がる。小走りに去って行く。
   菊の助、悔しそうな顔でうつむく。
   こぶしをぎゅっと握る。

○長屋・菊の助の部屋(夜)
   行灯の明かりの真横で錦絵を描き続ける菊の助。全てお美代の春画。
菊の助「お美代……お美代……」
   菊の助、狂ったように絵を描き続ける。
   途中、手を止める。筆を持ったまま、菊の助、ぽたりと涙をこぼす。
菊の助「お美代……」
   菊の助、松前の絵を取り出し、憎々しげに睨み付ける。筆を手にし、赤の墨
   でその絵に大きく×をつける。
   菊の助、狂ったように×をつけ続ける。
菊の助「なぜ俺は絵師なのだ……」
   菊の助、筆をおろし、崩れ落ちる。
   何枚も描かれたお美代の春画が周囲に散らばっている。



*****

細かいつっこみどころはあるけれど、比較的気に入っているお話だったりします。
時代劇……というよりは、歴史モノ、って感じではあるんですが。
ちなみに、この時代、春画を描くこと自体は別におかしなことではなかったそうです。
ただ、人の妻を自分と絡めて……みたいのはまずいんじゃないかと、そんな感じの流れを思いついて書いたというお話でした。
| - | - | 22:06 | category: シナリオ |
つぶやき。
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